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海外レコード買い付け よもやま話◆ ボストン 第58回 2026年3月19日 再びアメリカでの新規店開拓です。ニューヨークから一飛びでボストンへ。この町は知的レベルが高いことで知られています。何しろハーヴァード大学があるのです。また、アメリカで最初に地下鉄が走ったところです。ニューヨークの買い付け先で得た情報から、私は二つの店を目指しました。最初は中心部にある『ルーニー・チューンズ』。ここのオーナーのパットは相撲取りのような体格で、いつも朗らかな笑顔を絶やさない男でした。初めて行った時から私を気に入ってくれて、すぐに仲良しになりました。買ったレコードはステーション・ワゴンと呼んでいた大きな車でホテルまで運んでくれました。1万枚ほどのクラシック・レコードは、特に仕分けはしておらず、これに目を通すのはかなりの作業量でした。と言うのは、レコード・ケースの下の開いている部分には2段のブック式に収められたレコードもあったからです。50メートルほどのこの部分をチェックするのは一苦労でした。 パットは支店も持っていました。店から少し離れたマサチューセッツ・アヴェニューを北に向かえばすぐ大きな橋になり、それを過ぎてどこまでもまっすぐに向かえばほどなくして、ハーヴァード大学になります。支店はその手前にあり、学生街と言う打って付けの場所の一角を占めていました。そこは、アメリカの店にしては小ぎれいで、丁寧に仕分けをしたディスプレイとなっていました。当時はどこへ行っても店頭は乱雑で、恐らくこの店のやり方がやがてアメリカ全土に広がったのではないかと思われるほどでした。ここで選んだレコードは社員が本店に移送してくれたので、本店で買ったものと一緒にしてホテルに運んでもらいました。外国のレコード・ディーラーの買い付け先は殆どがニューヨークか西海岸で、ボストンまで足を延ばした私はとても歓迎されました。 第59回 2026年3月26日 『ルーニー・チューンズ』はボストンの目抜き通りにありました。店に並行して地下鉄が走っており、最寄りの駅は直ぐ近くでした。朝10時開店なので私はいつも早めに出掛けました。施錠は従業員に任せているようなので、私はそれを待つことになります。アメリカの店の開店時間はとてもルーズです。時間通りに店が開かれることは殆どありません。2時間も待たされたり、時には来ないこともあります。私は根気強く2時間は待ち、それで来ない時は別の店に向かいます。鍵を持った従業員はだいたいコーヒー片手に、ポケットからはみ出しているパンやドーナツ、あるいはピザを持って現れます。店に着くなり朝飯を始めるのはどこでも同じです。オーナーも変わりなく、私はホテルで済ませてくるのでそんなことはありません。でも時には、コーヒーやパンを貰うこともありました。 だから私も、普段は飲み物を持って入りました。稀に店での飲食を禁じているところもありましたが、概ねOKです。勿論レコードに零したりしたら大変なので注意が必要です。お客さんたちは心得たもので、私は誰かがレコードに飲み物をこぼしたのを見たことがありません。ついでですが、たまに猫好きなオーナーがいます。これには困ったもので、大きな猫が居心地良さそうにジャケットの上に座っているのはよく見ました。そのような店のレコードは決まってジャケットに猫の毛が付いています。これは静電気でくっつくので、検盤した時に付いたのでしょう、レコード盤面でもよく見かけました。また、猫はダンボールを引っ搔くのが好きです。縦に並んでいるレコードのジャケットを猫が爪砥ぎに使っている例はよく見かけました。従業員は気を付けているのでしょうが、レア盤にこんなことをしたら目も当てられません。私は猫好きですが、ハンティングの時の彼らは敵でした。 第60回 2026年4月2日 『ルーニー・チューンズ』のパットから興味深い情報を聞いた。ボストン中心部から少し離れているが行ってみるとよいとの事。他ならぬパットからの話なので、すぐに出かけた。初めての場所なのでタクシーに乗り30分余りで着いた。10坪にも満たないとても小さな店だが、小奇麗なレイアウトで、何よりもアメリカの店では珍しく良い品のみ吟味して揃えていた。パットから電話を受けていたらしく、若い店員(一人しかいない)の応対はとても丁寧で、私の動きをずっと目で追っていた。いつものことだが、私の買い付けは、最初十数枚選んで価格などを確認し、それで気に入れば、さらに力を入れて探し始める。私が運搬のことを考えているのが分かったらしく声を掛けてきた。「倉庫があるんですが行ってみませんか」と。頷いた私を見るや、店員は店に施錠をして駐車してあった車に目をやった。 ものの15分ほどで倉庫に付いた。さっきの店と同じく『デジャヴ』(フランス語で記憶に類する言葉)の看板を掲げている。それは外観は立派な店のように見えたが、一歩中に入れば40坪ほどのスペースに足の踏み場がないくらいのレコードの山だった。私はいつもの様に、レコード箱を積んで上の方から手当たり次第に箱を開けてレコード選びをしたニューヨークのアカデミー・レコーズの倉庫を思い出した。迎えてくれたのは私より少し年上の小柄な女性で、彼女の応対から大変なしっかり者だと感じた。「1000枚買ってくれたらとても安いよ」の声に(この価格は企業秘密)私は本腰を入れてハンティングを開始した。私が選んだ後は、雑然としていた店内がみるみる整理されていく。きちんと見ることで見逃しも少なく結局は時間もかからないと言うのが私の鉄則である。女性オーナーは私に目を配りながら頷いている。私は気に入られたようだ。 よもやま話 目次へ |