ヤーブルー・ハウスは間口が10メートルほどある中程度の店だった。入ってすぐのところは小さなカフェになっており。ニ、三人が話していた。ダンボール箱を抱えた私を見て、その中の一人が歩み寄ってきて言った。「レコードですね」と。私が頷くや、彼女は奥に入って行って私と同年齢で顎髭を生やした男を連れてきた。実に人の好さそうな男は「どちらからですか」とどこに行っても聴かれる言葉。日本人であると知るとどこでも愛想がよくなる。彼は入口の左側の部屋に私を案内した。組み物を収めた小さな棚が奥に一つあり、あとはエサ箱の一枚物が中心だった。それらは、海外の店では珍しくジャンル別に整理されており、デッカ、EMIなどの人気盤はコーナーを設けていた。私はどこへ行ってもざっと見て所要時間を見積もる。これは夕方までかかりそうだと踏んだ。  客は誰もいなかった。夕方までニ、三人来ただろうか。レイアウトから想像はしていたが、嬉しかったのは品質が極めて良かったことだ。傷んだものは処分しているに違いない。一時間おきぐらいにオーナーがやってきて私が選んだものを眺めて行った。ほとんど口は挟まない。優しい目で軽く会釈して戻っていく。彼の名はジョック。ジャックではない。私が夕方まではかかるだろうと言ったせいか、途中二度ほど声がかかり、喫茶室でスコーン(ビルスケット)をかじりながら旨い紅茶を飲んだ。可愛がっているらしい大きい猫が寄ってきては、私の足にスリスリしていく。私は猫好きなので喉を撫でてやると、ゴロゴロと喜んでいた。はっと思って選んだレコードを気を付けてチェックしたが、猫の毛は付いていない。レコードの店には猫を入れていないようだ。アクセスは不便なところだが、私はここが大いに気に入って、その後は重要な買い付け先となった。