本格的に新たな取引先を探す行動に移った。初めてロンドンに足を踏み入れた時の心細さは無かった。海外での歩き方のコツも覚えた。それは、被害に遭う外国人は、一目見て旅行者であると分かることだ。カメラをぶら下げていたり、しょっちゅう時計に目をやったり、人ごみの中をきょろきょろしながら歩き、立ち止まって地図を広げたり。少なくとも折りたたんだ数個のダンボール箱を手車に積んで足早に歩く私は旅行者には見えなかった。街中で何度旅行者から道を尋ねられたか知れない。日本人ばかりでなくヨーロッパ人からさえ声を掛けられた。いつも速足で目的地に向かっている私は現地人と見分けがつかなくなったらしい。海外買い付けを初めて10年以上過ぎた。西海岸やロンドンそしてパリにはそれぞれ10回以上足を運んでいただろう。もはや地図も不要だった。  新たなハンティング先として向かったのはウェールズだった。ロンドンから西に列車で4時間。車内はいつも空いていた。途中大きな町はほとんどない。入り江に架かる橋を渡ればウェールズに入る。目的地はカーディフ。駅に着くや見慣れない看板に気付いた。道路標示などあらゆるものに、英語と並んで見慣れぬ語句が書かれている。人に尋ねて分かったが、ウェールズ語を並べて表示していたのだ。わが国では経験できないことだ。住民の誇りを感じた。駅を出るや、大きな屋根の付いたマーケットが目に入った。ロンドンを始め他の町では見掛けぬ大きさだ。物珍しさで足を踏み入れた。勿論土産物屋も多かったが、野菜が多く、港が近いせいか魚類も多かった。嬉しいことに奥の方にレコードを山と積んだ店を見つけた。ジャンル別の仕分けもしておらず無造作に箱に詰めたものを並べたり重ねたり。クラシックを探すのに苦労をしたが、ここは言わば“穴場”であった。