ニューヨークの「アカデミー・ブックス&レコーズ」(以下「アカデミー」と呼ぶ)のレコードは3割しかなかった。だが、5千枚ほどのほとんどがクラシックだったので、2日ほどかけてゆっくりとみることが出来た。しかも在庫品の入れ替わり(業界用語で回転と言う)が速く、いつ行っても新着がある。このような店には、例えば10日間の旅であれば、初日と最終日そして中間の日というふうに3度訪れる。私の買いっぷりに目を配っていた店主やレコード部門のマネージャーとはすぐに親しくなった。店主は50代半ばの学者肌の男で、店に出ていることは殆ど無く、いつもオフィスで読書に耽っていた。私もまた読書好きで、歴史的名作の単行本を必ず一冊持ち歩いていたので、彼は興味を示し、すぐに仲良しになった。私がもっと英語に堪能であれば興味深い会話を楽しめただろうと悔やんでいる。  レコード・マネージャーのジョセフは、目抜き通りのブロードウェイを闊歩しているビジネスマンのように、垢抜けした紳士だった。彼はいつも言葉少なで、鋭い眼光で部下の指導をしていた。アカデミーはタワーレコードなどを除けば、個人経営の店としては最も大きかった。商品はきちんと整理されて並んでいたし、価格はステッカーが貼ってあるだけだったが、品質管理は行き届いていた。海外のレコード店から見ればわが国の管理は信じがたいだろう。一枚ごとビニール袋に入っていることは珍しいし、価格は直接ジャケットにシールが貼られている。時には床に重ねられていたり、もっとひどいのになるとレコードの上を店の飼い猫が歩いていたり、その上で寝ていることもある。そんな店ではレコード面に猫の髭が付いているものも目に入る。つまり、検盤のためにレコードを内袋から引き出した時に起きた静電気で猫の毛が盤面にくっついてしまうのだ。