サンフランシスコはボストンと並ぶ文化都市だが、ユニークな面もある。ポーク・ストリートと言う通りには面白い名のレコード屋があった。「ルックス・アンド・ベコーズ」と、何のことか首を傾げるが、ブックとレコードの頭文字を入れ替えたもので、本とレコードを扱っていた。南北に延びるこの通りを地図を片手に探していたら、通りがかった人に言われた。「気を付けて行きなさいよ」と。意味が分からなかったが、通りに入ってすぐに気づいた。男同士連れだったカップルがやたらと多く、時には道端で抱き合っている者たちも見掛けた。後になって店のオーナーに言われた。「この街はホモが容認されているんだよ」と。これは進んでいる街だと半ば感心してハンティングを楽しんだ。だが、抱き合っている男同士を見るのは余り気持ちの良いものではないので、この店はやがて疎遠になった。  同じ様に寛容な町がヘイト・アッシュベリー。これは二つの道路の交差点付近が1960年代にヒッピー発祥の地と言われているからだ。ベトナム戦争の世情不安を受けて、若者たちの間で厭世観が広がり、いつの間にか溜まり場になった。交差点を示す道路標識の前では、若者が大勢シャッターを切っている。いまでこそヒッピーは見掛けることが少ないが、見るからにそれと分かる若いホームレスが(多くは愛犬を連れて)道端に座り込み、中にはギターをかき鳴らしている者もいる。私は近くに「リサイクル・レコーズ」という恰好な店を見つけたので、その付近を歩くことが多くなった。その店のオーナー、ブルースはクラシックに詳しいわけではないが、サンフランシスコの業界の中では名が通っており、私には殊の外親切だった。1980年代半ばにもなり、私の海外買い付けも板についてきた。品揃えは格段に良くなり、レコード芸術誌には定期的に広告を出せるようにもなっていた。