サンフランシスコの東北端に、ひっそりとやっていた『マジックフレーテ(魔笛)』というクラシック専門店があった。店主は年老いていたが、中々の物知りで教わることが多かった。後で知人から聞いた話だが、元々ボストンに住んでおり、相当のコレクターだった伯父さんに教わったことが、この店の開店に繋がったらしい。今では顔も覚えていないが、私はこの店主から多くを教わった。残念なことに、私が通うようになった1~2年後には廃業してしまった。サンフランシスコはボストンと並ぶ文化都市であり、例えば住宅などもヴィクトリア様式の素晴らしい建築をよく見かけた。その後東海岸や北のシカゴそして南のフロリダまで足を延ばすようになっても、私の頭には、『魔笛』を凌ぐ専門店は残っていない。幅4メートルほどの間口に降ろされた格子型のシャッターの前で開店を待った頃が懐かしい。  サンフランシスコの町を東西に貫く大通り、マーケット・ストリート界隈にはレコード店が多かった。クラシックを持つ店だけでも5~6件あった。但し、大きな店でもクラシックの在庫は5000枚程度なので、一日あれば見終える。開店時間は殆どが10時であり、遅いところは午後1時のこともある。私のハンティングは開店時間の最も早い店から始まる。ここで、日本では考えられないルーズさに泣かされることが度々あった。つまり、開店時間に行っても、延々と待たされることである。勿論入口の扉には何の表示もない。ヨーロッパでは経験の少なかったことがアメリカでは茶飯事である。大型店では常に正確だったが、個人営業の店に限る。一時間を超えて待っていた客に対して、遅れてやってきた店員は悪びれる様子もなく、時には待っていた客に目も向けずにゆっくりと鍵を開ける。こうした無礼な店はほとんど決まっていたので、私は朝一番で行くのを控えるようになった。