ロサンゼルスとサンフランシスコは飛行機で1時間半だ。この二つの町はどちらもレコードで溢れていた。それぞれに一週間の滞在では回り切れないほどの取引先が出来ていった。早い時点で三週間かけて二つの町に出掛けることが多くなった。もう一つの理由がある。それは、買い付けたレコードを日本へ送る場合の経費である。集めたレコードを別々に日本に送るよりもまとめて送った方が大分安く上がる。つまり、ロサンゼルスで買ったレコードをサンフランシスコに送って一緒に日本に向けて出荷する、あるいはその逆である。こうして、私のアメリカ西海岸での買い付けは、ヨーロッパと並ぶほど重要になっていった。理由はわからないが、同業者でアメリカに出掛けているところは稀だった。こうして、私もお客様もアメリカ盤そしてアメリカの初期盤に詳しくなっていった。  西海岸ではまだ慣れない頃、何度か怖い目に遭った。サンフランシスコの目抜き通りでたむろしていった男たちの傍を通りがかった時、ナイフをちらつかせた男がいた。暗くなってからの外出は避けていたが、用心していても避けられないことが多かった。タクシーはいわゆる無免許の“白タク”が多かった。ロサンゼルス空港に向かっている時、山の手をぐるりと遠回りされたことがあった。人気のないところを通った時に運転手が言った。「この辺の輩は、20ドル欲しさに人殺しをやる。車が故障したら大変なことになるぞ」と脅かされた。また、レコード店で200枚ほど買い付けたものをタクシーで運ぶために、3つのダンボール箱に分けたものを一個ずつ道路際まで運んだ。それを見ていた店主が奥から走ってきて、「No, This is America」と叫んだ。つまり、アメリカにはその重い箱を担いで走り去っていくほどタフな奴が多いということなのだ。