デュマゼール氏と出会う以前に、パリで最も足繫く通ったのは街の中心にあるミュゼ・ギャランという音楽専門店と、セーヌ川の対岸カルチェ・ラタンの一角にあったクラシック・レコード専門店のダメ・ブランシュだった。マニア向けのクロコダイルという店は女性が経営しており、値下げの交渉には全く応じてくれなかった。パリの町は大きな広場を中心に道が八方に広がるので、地図無しで歩くのは大変だったが、10回を超えた頃から地下鉄の利用に慣れていった。パリの地下鉄は中心街を少し離れると地上に出るので景色も楽しめた。私は買い付け中レストランに入ることは少なかった。特にレストランなどに入れば貴重な時間を失ってしまうからだ。だから、パリならばバゲットをかじりながらレコード棚に向かっているのが普通だった。どんな店でも大目に見てくれたものだ。  ハンティングに夢中になっていた時にある客から、ブリュッセルが面白そうだという話を耳にした。具体的な店の名も教わった。以前ベルギーのリエージュにはボベスコのレコードを探しに出かけたことがある。パリから列車で2時間だ。これを逃す手は無い。ロンドンもパリも行先によって遠距離列車の発車駅が違う。パリでは北はガル・デ・ノール駅、南はリヨン駅だ。ロンドンも東西南北で乗車駅が区別してある。これを身に付ければ非常に歩きやすくなる。我々東北人が東京に行くには上野駅が終着だった時代があった。それと同じだ。そんなことで、パリのホテルに荷物を置いたままで、ブリュッセルまで二泊三日の旅をすることになった。果たして、ブリュッセルの中央駅は見すぼらしいほど小さかった。目的地はルー・ド・ミディという商店街。駅から30分も掛からないので歩いた。途中の人だかりに割り込んだら、有名な「小便小僧」があって用を足していた。