数の少ない部屋でも一万枚、多い部屋ではSPを含めて三万枚ほどのレコードがあっただろうか。私のレコードを見るペースは一日で五千から八千枚。これぞと思うレコードは必ず検盤するので時間がかかるのだ。つまり、彼のコレクションのすべてに目を通すには十日かけても無理だろう。レコード棚はセクション別に分けてあったが、更に細かくは分別していない。見慣れないセクションがあった。『メロディー』、つまり『声楽曲』だ。フランスなら『シャンソン』かと思ったら違っていた。そのメロディーとオペラはやたら多かった。私が個人的に最も好きなジャンルなので、ついつい時間をかけてしまい、後になっていつも悔やんだ。これらをたくさん選んだら、最も売れ行きの悪いジャンルなので痛い目にあう。結局この時は5日間ほど滞在し、その後は毎回同じペースで別荘に通うようになった。  デュマゼール氏は日程を提案して下さった。夜の9時までレコード選びをしてホテル送ってもらう。ホテルは民宿と言っても良いような小さなものが車で10分ほどのところに2~3件あった。民家に手を加えたような安宿だったが、居心地はとても良かった。朝食を終えた8時過ぎに誰かが迎えに来て、別荘に着くなりレコード選びが始まる。昼食は夫妻と一緒に軽く済ます。忙しなく尻尾を振っては飛び回っているバンビが場を和らげてくれる。それは一時間を超えることなく仕事に戻る。今度は長い。6時過ぎには夕食が始まる。デュマゼール氏は、ワインセラーから上等なものを持ってきてテーブルの真ん中に置く。私はその赤白のラベルを見るのが楽しみだった。せいぜい名前と産地が読めるくらいだがそれがいいのだ。デュマゼール氏にはワインの味わい方を一から教わった。別にワイン通では無かったが、ワイン無しの夕食など考えられない人たちだった。