アメリカへ行き始めてからも、ほとんど交互にイギリスでのハンティングは続いていました。イギリスでは相変わらずロンドンと南部のブライトン地区が中心で、アメリカはロサンゼルスのみでした。私はより広い品揃えをするためには、他の地域にも足を延ばす必要があると、いつも考えていました。魅力を感じていたのはパリとニューヨークでした。でもそれぞれに不安がありました。それは、ニューヨークの治安の悪さとパリでの言葉の壁でした。ニューヨークにおける発砲事件は頻繁に放送されていました。その点ロサンゼルスは思った以上に安全でした。ニューヨークでは日本人が巻き込まれる事件も耳にしましたが、ロサンゼルスでは、日本人がコミュニティーを築くほど多いために事件に巻き込まれることは少なかったのです。そんな時に興味深い記事をある経済紙で見つけました。  文化欄を半ページほど使った音楽関係では珍しいもので、『世界三大レコード・コレクター、ギー・デュマゼール氏の話』でした。三大コレクターとは他に誰のことなのかは分かりませんが、デュマゼール氏のことが丁寧に書かれていました。SP時代からの10万枚以上のコレクションをパリの自宅に持っていること。特にSPレコードのLPへの復刻に意欲を燃やしていることなどが分かりました。言葉の壁への不安など吹き飛んでしまい、私は早速彼に手紙を書きました。どんな文面だったか覚えていませんが、すぐに丁寧な返信が届きました。数行の短いものでしたが、地図のコピーもあったように覚えています。それからパリの下調べが始まりました。町は数か所を中心に道が放射状に延びており、とても歩きにくいことは容易に察しがつきました。でも、誰もが憧れる芸術の都のことを想えば、音楽のみならず好きな絵画のことも頭を巡って体が熱くなる思いでした。