アメリカでは危険を避けるために近距離でも出来るだけタクシーを利用することにしました。ロサンゼルス空港に降り立った私は、イギリスとあまりにも違う人々の様子に不安になり、とにかくまっすぐホテルまでタクシーを飛ばしました。ホテルは東西に延びるハリウッドのメイン・ストリート(歩道にスターの名の入った星印がならんでいる)から北に200メートルほどの閑静な場所にありました。さらに300メートルほど行けば有名な野外演奏会場のハリウッド・ボウルがあります。ここにホテルを取った理由は、私にFAXを送ってくれた店から約2キロの地点にあったからです。夕方だったのですが、窓からは大勢の観光客が歩いているのが見えます。私はハリウッド散策にも出ずに、ホテルの部屋で読書をしてアメリカでの最初の夜を静かに過ごしました。  翌日、その店の開店時間に合わせて私は出掛けました。定刻よりちょっと前に着いたのですが、それから30分待っても店の人は現れませんでした。ハリウッドから僅か2ブロックしか離れていないのですが、人通りは少なく心細い思いがしました。背が高くがっしりした男が遠くから急ぎ足でやってきました。50歳くらいに見えるその男はとても愛想よく、遅れた詫びを言い、鍵を開けるや私を店に招き入れました。大きな店で、私は隅々まで見渡し、時にはレコードを手に取って価格やコンディションをチェックしたりしました。そんなところに若い従業員も出勤してきて、頷いた彼は私を奥のドアのところに連れて行きました。扉が空けられて、8段もの木の棚にぎっしり並べられたレコードを見て私は愕然としました。所々に平積みになっているレコードを見て、それらの多くがアメリカ・トスカニーニ協会のものだということはすぐに分かりました。