イギリスでの買い付けは続きました。その頃の私は、ロンドンの行きつけの店で、常連の一人になっていました。しかも、買う量が違うので、コレクターたちからは羨望の眼差しで見られました。そんな中で多くの情報を耳にするにつけ、ブライトンやホーヴ以外の街にも行ってみたくなりました。例によってグラモフォン誌の広告から多くの手掛かりを得ていました。折よく、どこで私の名を知ったものか、リヴァプール近郊に住むディーラーからホテルに電話が入りました。なぜ私のホテルを分かったかは、もう思い出せません。ビートルズの故郷リヴァプールはロックにそれほど興味を持っていない私にも魅力的で、少し浮かれて出かけました。初老のディーラーはリヴァプール駅で迎えてくれました。人のよさそうな風貌を見るなり私は胸を撫で下ろし、彼の車に乗り込みました。家は入江を対岸に渡った閑静な町、マーシーサイドにありました。  家に着くや真っ黒で毛のふさふさした小型犬がボールをくわえて走ってきました。「ボールを取れ」と言った仕草をするのですが、ぐいぐい引っ張ってもきつく嚙んで放しません。私が手を緩めるや犬はポロリとボールを落としました。私はとっさにボールを拾って遠くに投げたら、犬は駆けて行って再びくわえてきました。そして、また同じ仕草の繰り返し、私は「遊ばれているんだ」と思いました。奥さんの声でテーブルに着いた私のところに、ディーラーが抱えてきたレコードがどさりと置かれるや、私は目を丸くしました。いわゆるレア盤の山です。どこの店でも数枚手に入れるのに苦労するような珍しいもの、高価なものがさらに積み上げられていきました。私は新しい形のハンティングが始まったのだと思いました。三百枚ほど運んできたディーラーは笑顔で頷きを見せました。