“サンダラス”はグレイ氏のスコットランド訛りで、アラン・サンダース氏のことでした。驚いたことにレコード通ならだれでも愛読している『グラモフォン誌』の主筆で、たくさんのレコードを持っていて、適価で譲ってくれるのだそうです。取引先はこうやって広がっていくんだと思いました。興味を持った私は、サンダース氏についての幾つかの話をしてもらい、早速リッチモンドにサンダース氏を訪ねることにしました。定宿のストランドパレス・ホテルから近い地下鉄駅を利用して、西方面1時間の終点にリッチモンドはありました。携帯用の台車とダンボール箱を抱えて出かけました。道に迷うことは何度もあったけれど、その日はリッチモンド駅までサンダース氏が迎えに出ていました。  グレイ氏から情報を得ていたのでしょう、穏やかな笑顔で迎えてくれた彼は、手を差し出して、私の荷物の半分を持ってくれました。その日はあいにく小雨が降っていました。ロンドンは「一日に四季がある」と言われるくらい天気が変わり易く、ハンティングの悩みの種でした。ロンドン郊外の家は2階建ての小住宅が軒を連ねており、玄関の前に小さな植え込み、裏には小さな庭があるのが普通でした。彼は独身で、植え込みも庭も手入れをしていません。中に入れば、いくつものレコードの山があり、棚に整理されたものも含めて、ざっと5000枚ほどでした。必要なものは2階の自室にあるので、目にしたものから何でも選んで良いと言われました。ちょっとした話をした後、私は選び始めました。イギリスではどこに行ってもデッカやEMIが大半を占めます。私はそれが欲しいのですから何よりです。評論家だけあって、良いものが揃っていました。彼はちょっとの間私を観察したと思ったら、2階に上って行き、しばらくしてから台所で料理作りを始めました。