ホーヴ通いが2年ほど続いた時だったでしょうか。ドアを開けて店(倉庫?)に入るなりグレイ氏が言いました。「今日はシ―フォードの店に連れて行ってあげるよ」と。怪訝な顔を見せた私に、「それほど遠くない。1時間で行くよ」と続けました。頷いてレコード選びを始めた私の横に来ては、時折その店の説明をしてくれました。出来て間もない店で、オーナーは古い友人であること。クラッシック専門で、グレイ氏自身もたくさんのレコードを譲ってもらっていることなど、私の気持ちをそそるような話を続けました。さて、例のイタリア料理店での昼食の後、彼の車に乗り込んで、海岸沿いと山沿いの二通りあるコースの後者を走りました。それには理由がありました。30分も走ると左手の小高い丘に素敵な建物が見えました。それは有名なグラインドボーン歌劇場でした。  フリッツ・ブッシュのモーツァルト・オペラに始まった劇場の歴史にも興味があった私は、初めは是非ここで観てみたいと思ったものの、チケットを手に入れる困難さと、スノッブな評判を耳にして結局は足が向きませんでした。さて、シ―フォードの店は4000枚ほどの中古レコードを置いていました。レア盤はほとんど無いけれど、質の良いベーッシック盤が山ほどありました。人のよさそうな初老のオーナーは、私にはすべて半値で譲ってくれ、買いっぷりが気に入ったのでしょう、新着レコードはさらに安くしてくれました。不思議なことにこの小さな店は、例えば3か月後にもう一度出かけても、1000枚以上の新着を用意していました。こうして、ホーヴとブライトン界隈は私のハンティングにとってロンドンに次いで重要な店になったのです。ある日グレイ氏は「アラン・サンダラスを知っているかい?知らなければ紹介してあげるよ」と、私をじっと見て言いました。