生産数が大きく減ったとは言え、レコードの時代は続いていました。そんな中で往年の名盤に目を向ける人も多くなってきました。つまり『お宝探し』です。イギリスのEMIとデッカはひときわ人気がありましたEMIは名演奏が豊富なこと、デッカは音質の良さ。ですから、廃盤や過去の遺産に目を向ける場合、イギリスへ行けばほとんど間に合いました。私は少しずつ他の国にも興味が湧いてきましたが、ヨーロッパ大陸の国々は言葉の壁、アメリカは治安の悪さのために、なかなか足が向かなかったのです。  最初のイタリアへの旅から5年ほどは、ロンドンを中心に回っていました。あの広いロンドンの街を地図無しで歩けるようになりました。宿はコヴェントガーデン歌劇場やロイヤルフェスティヴァル・ホールに近いところに決めていました。音楽好きの私ですから、オペラや演奏会は欠かせなかったからです。いわば仕事冥利ということでしょう。この頃よく出掛けたのは、ホテルからテムズ川に架かるウォータールー橋を渡ってすぐのところにあった、グラメックスという専門店です。私より15歳年上のロージャーという店主を囲んで、レコード・マニアでいつも賑わっていました。時には一日をここで過ごし、多くの情報を得ました。ここでは、マルツィやヌヴーそしてミルシティンの初期プレスや、デッカSXLワイド・バンドのオリジナルがいつも飛び交っていました。私には手の出ない価格で、検番は自由だったので大いに勉強になったものです。そこでは日本人のコレクターにもよく出会いました。会話は少なく、誰もが血走った眼をしていたので、慣れないうちは、私には決して居心地の良い場所ではありませんでした。時には殺気立って、奪い合いになるような場面もあったので、身を置く世界が疎ましくなったものでした。