レコード・コレクターにとってロンドンは夢のような町でした。その頃の私の買い付け旅行は毎回10日間前後でしたが、一つの店で3日も過ごすことがありました。CDの発売される直前まで、レコードはよく売れていました。既に廃刊になった『レコード芸術誌』(音楽之友社発行)はずしりと厚く、恐らくここら辺りが頂点で、少しずつページ数が減っていきました。運のよいことに、私の妻の友人が、NHKロンドン特派員の奥様だったので、ロンドンの穴場をいくつか尋ねました。そこで紹介されたのは、ファーリンドン・レコーズという大型店でした。  ちょうどその頃、女流ヴァイオリニスト、ローラ・ボベスコの来日が決まり、思いがけずに、私が仙台での演奏会を主催することになったのです。まだ、一般的な知名度は低く、一部のレコード・コレクターの間で、そのレコードは高値で取引されていることはすぐに分かりました。私は海外のレコード・カタログを当たり、イギリスではORIX社から一枚出ていることを突き止め、早速、FAXを使ってファーリンドン・レコーズと連絡を取り、このレコードを20枚ほどオーダーしました。まだまだ規模の小さかった私の店では、その数が精一杯でした。まだ、演奏家の来日までは期間があったので、私はさらにボベスコのレコードを探しました。そこで見つけたのはベルギーのリエージュにあるデュシェスンと言う舌を噛みそうな名の会社でした。カタログにあるボベスコのレコードの多数を占めるのは、この会社のものでした。私は次の出張でこの店に出掛けてみようと心に決めました。