1980年以前、4度目の買い付け旅行で初めてロンドンを訪れるや、レコード店の多さに唖然としました。コレクターにとっては、初期盤の宝庫であり、聖地と考えられていました。私が求めたのはクラシック音楽だけでしたが、十分な数を揃えている店は、十数件あったでしょう。そして、その中の数件は、コレクターのたまり場であり、経験の浅い私には目もくらむような高値で取引されていました。私は若くしてシンガポールで3年間生活し、むさぼるようにレコードを買い、そして聞きました。それがレコード店を開業することに繋がったのです。シンガポールが独立して間もない頃で、支配していたイギリス人が帰国するときに山のようなレコードを処分していきました。私は、それらを安く大量に手に入れることが出来たのです。今でも人気の高いデッカやEMI初期プレスの多くが混じっており、それらは生きた勉強になりました。  ロンドンもパリも広場を中心に放射状に道路が伸びているので地図無しで歩くのは大変です。それでも、名のあるレコード店の多くは中心街にありました。コレクターの店でもっとも名高かったのはハロルド・ムーアですが、当時のポンドの相場での買い物では、簡単に手が出ません。指をくわえて見ていたものがどれほど多かったでしょう。オペラ好きの私が通ったのはカルーソー&カンパニーという専門店ですが、穏やかな店主がいつも好きな往年の名歌手の復刻盤を流していました。どの店の常連客もレコードの知識が豊富で、まだ、日本人が珍しい時代だったので話し相手をさせられました。